富谷市を拠点に、地域の人々との交流や催しを通して、心と体の健康を育む活動を展開するNPO法人SCR。自然環境保全に対する意識の向上、世代間をつなぐ持続可能なまちづくりを行い、すべての人々が生きがいを持って生活できる地域社会づくりに寄与することを目指しています。
自然再生活動や木工教室には、大勢の地域住民が参加。世代を超えたコミュニケーションもしっかり育まれています。自然再生活動の一つが「はちみつプロジェクト」。環境の良い場所にしか生育しない日本みつばちを育て、豊かな自然あふれる環境づくりに取り組んでいます。試行錯誤を繰り返しながら、コロナ禍の中にあっても着々と成果を上げる「はちみつプロジェクト」についてご紹介しましょう。
※撮影のためマスクを外している写真がございます
みつばちがいなくなると、私たちの暮らしに大きな影響が
現在、世界中のみつばちが急速に減少し社会問題となっています。地球温暖化や環境汚染が主な原因と考えられますが、みつばちが少なくなると、私たちの生活に大きな影響を及ぼすことをご存じでしょうか? 国連環境計画(UNEP)の報告によると、世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はみつばちが受粉を媒介していると言われています。みつばちがいなくなると、野菜や果物が今までのように食べられなくなる恐れも生じるのです。
とりわけ「環境指標生物」として位置付けられる日本みつばちは、環境の変化にとても敏感です。そもそも日本みつばちは、アジアに生息するトウヨウミツバチの一種。日本にしかいない固有種です。ところが近年は西洋みつばちに押され減少傾向に。養蜂業で一般に飼育されている西洋みつばちよりも約10倍農薬に弱い、という研究データも発表されています。
SCRが取り組んでいる「はちみつプロジェクト」は地球規模で見ると小さな一歩かもしれません。しかし、歩みは小さく見えても、ゼロカーボンを目指す地球環境にとって大きな意味を持っているのです。
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はちみつには、さまざまな栄養成分がバランスよく含まれ、パーフェクトフードとも呼ばれている。
富谷市の豊かな自然は、みつばちがすくすく育つ環境にぴったり
SCRが「はちみつプロジェクト」を始めたきっかけは、みつばちが富谷市の環境バロメーターになると考えられたため。富谷市は昔ながらの自然が豊富です。みつばちが生育するのに最適な場所が多く、恵まれた環境を残していきたいとの想いも、プロジェクトを後押ししました。
プロジェクト初年度(2016年度)は、SCRメンバー5人で実証実験をスタート。翌2017年には市民の参加を募り、18人で飼育を行いました。参加人数は年を追うごとに増え、2018年は21人、2019年は28人、2020年は37人に。参加者は楽しみながらみつばちに寄り添うことが実感できた反面、越冬率が20%だった年も。それでも採蜜量は年々増加し続け、2021年はコロナ禍で実施そのものが危ぶまれたものの、32人もの参加者がありました。越冬率も75%に達して、養蜂技術が短期間で向上。毎年参加してくださっている皆さんの熱意と努力の賜物と言えるでしょう。
2022年の参加者は27人でした。市民から5人のリーダーを選出した現在、「はちみつプロジェクト」は新たな一歩を踏み出そうとしています。
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みつばちに寄り添いながら、養蜂に励む「はちみつプロジェクト」参加者たち。
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富谷市の自然を活かした、SCRのさまざまな取り組みが、人と人との絆も結び育んでいく。
蜜源ひまわりも花開き、はちみつ本来の美味しさが満喫できるオリジナルスイーツも好評
みつばちにとって蜜源はとても重要です。蜜源とは蜜を分泌する植物。みつばちが好む植物のことです。2022年、SCRは蜜源を作るためにひまわりを植えました。名付けて「蜜源ひまわり」。ひまわりは農地に植えやすく、街の景観を損なう心配がありません。市民への呼びかけもしやすく、一石二鳥以上の効果が期待できます。
これまで7年間にわたり進められてきた「はちみつプロジェクト」は、そもそも富谷市の新たな特産品の可能性を探る「実証実験」として始められました。2016年〜2018年に開催された「とみや国際スイーツ博覧会」には、手作りはちみつを出品。400個限定販売され、たちまち完売するほど好評でした。はちみつを使った富谷スイーツは、市内のスイーツ店で購入できるほか、SCRが運営するはちみつ甘味お休み処「いい茶や」(富谷宿観光交流ステーション「とみやど」内)でも提供。はちみつレモネード、はちみつぜんざい等、はちみつ本来の風味が楽しめます。近いうちに、はちみつ羊羹もお目見えする予定です。
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2022年に開花した蜜源ひまわりが、ゼロカーボンの実現に向けて新たな可能性も開く。
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富谷産「生はちみつ」をかけていただくめでたいっ茶プレート。
子どもたちが「みつばちが住む里」として誇れる環境づくりを目指す
みつばちが住める環境づくりは、人々が安心して暮らせる環境づくりにつながります。こういった考えのもと、SCRはボランティアの方々や企業の応援・協力をもらいながら「西成田みつばちの里づくり」も展開。蜜源花と蜜源野菜づくりを中心に行い、竹で秘密基地や飯盒(はんごう)もつくるなど、さまざまなイベントが多くの参加者に刺激を与えています。
最初のうちはみつばちが苦手だった子どもも、蜜源づくりを通して関心を抱くようになり、知らず知らずのうちに地球環境に対する意識も高められています。
「はちみつプロジェクト」は、行政と市民協働のまちづくりとして、注目を集めている取り組みです。養蜂は富谷市役所の本庁舎屋上で行われ、冬越えした西洋みつばちが春に飛び回る様子を目にするだけで、美味しいはちみつだけでなく、たっぷり元気までもらえそう。
SCRは次世代を担う子どもたちが「みつばちが住む里」として自慢できるまちづくりを目指し、今後は耕作放棄地を活用した蜜源づくりをはじめ、地域の皆さんと一体となった活動をより一層繰り広げていきたいと考えています。応援よろしくお願いします。
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富谷市役所の本庁舎屋上が養蜂拠点に。毎年参加する市民の手際も、もはやプロ顔負け。
法人名の「SCR」は、下記の通り3つのキーワードの頭文字から取っています。
Smile…人々が笑顔で心身ともに健康に生活できるよう応援します。
Challenge…多くのことに挑戦することで新しい未来を創り出します。
Relation…人・自然・地域とのつながりを大切に活動していきます。